顔にチョコがついているのに「食べてない!」と真顔で言い張る。 宿題をやっていないのに「もう終わったよ」と報告する。
わが子の口から初めて「あから様な嘘」が出たとき、親の心には言いようのない不安がよぎります。「このまま嘘つきな大人になったらどうしよう」「自分の育て方が悪かったのか……」と。
でも、安心してください。 病院で毎日MRIなどの画像を通じて「脳の内部構造」を見ている医療従事者であり、家ではシステムを組むエンジニア、そして2児の父である私の視点から言えば、子供の嘘は「道徳的な失敗」ではなく、「知能が高度に発達した証(あかし)」です。
今回は、嘘を「叱って直す」のではなく、エンジニアがプログラムを修正するように冷静に「解決(デバッグ)」していく、新しい向き合い方を提案します。
1. 脳科学的に見れば、嘘は「エリートの証明」である
実は、嘘をつくという行為は、脳にとって恐ろしく高度な作業です。
- 「本当のこと」を頭の隅に追いやる力
- 「相手が何を知っていて、何を知らないか」を推測する力(メタ認知)
- 「もしこう言ったらどうなるか」という未来のシミュレーション能力
これらが揃って初めて、嘘というアウトプットが可能になります。 放射線技師として脳画像を見る立場から見れば、これは「前頭前野(思考や理性を司る場所)」が順調に、かつパワフルに育っている証拠そのものです。
嘘をつき始めたら、「お、この子の脳のOSが最新版にアップデートされたな」と、まずは心の中で静かにガッツポーズをしてもいいくらいなのです。
2. なぜ嘘をつくのか? それは「親子システム」のバグかもしれない
橘玲氏のような論理的思考で育児を捉え直すと、子供の嘘は「性格の問題」ではなく、「その環境では、嘘をつくのが最も合理的である」という判断の結果だと言えます。
子供が嘘をつくとき、そこには必ず原因(バグ)があります。
- 「100点」へのプレッシャー: 親をガッカリさせたくないという健気な自己防衛。
- 「叱られる」ことへの恐怖: 正直に言ったら怒られると分かっているなら、嘘をつくのが生存戦略として正解になってしまいます。
つまり、嘘は子供が悪いのではなく、「正直に言っても安全だ」という安心感がシステム内に不足しているエラーメッセージなのです。
3. 親子の信頼を取り戻す「エンジニア流・デバッグ術」
では、具体的にどう対応すればいいのか。私が実践している3つのステップを紹介します。
ステップ1:問い詰めるのをやめる(入力の最適化)
チョコがついている子に「食べた?」と聞くのは、子供に「嘘をつくチャンス」を与えているだけです。 代わりに、「チョコ、食べたかったんだね。美味しかった?」と、まず欲求に共感しましょう。これがエンジニアリングでいう「良質なプロンプト(問いかけ)」です。
ステップ2:環境(UI/UX)を整える
「片付けなさい!」と怒鳴る前に、片付けがワンアクションで終わる仕組み(UI)になっていますか? 子供ができないのは能力不足ではなく、「お部屋というシステムの使い勝手が悪い」だけかもしれません。ユーザー(子供)を責める前に、環境をデバッグしましょう。
ステップ3:エラーログではなく、感謝を伝える
失敗して嘘をついてしまった時でも、もし一瞬でも本当のことを言えたら、そこを全力で評価します。 「怒られるのが怖かったのに、正直に教えてくれてありがとう。すごく助かるよ」 この一言が、子供の脳内にある「嘘=安全」という古い回路を書き換え、「正直=パパが喜ぶ」という新しい成功ルートを構築します。
4. 結論:完璧な親ではなく、優秀な「管理者」であれ
私たちはつい、感情をぶつけることで子供を変えようとしてしまいます。しかし、それはシステムを叩いて直そうとするようなものです。
あなたは「完璧な親」になる必要はありません。 科学的な根拠を少しだけ味方につけて、親子というシステムを心地よく整える「管理者」であればいいのです。
「自分を責めない。子供を疑わない。ただ、環境をデバッグする」
今夜、もしお子さんが小さな嘘をついたら。 問い詰める手を一度止めて、「そう言いたかったんだね」と、アップデートされた彼の知性を面白がってみませんか。


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